リフォームの匠・中西ヒロツグ氏は、
初めてエアサイクル工法を利用してモデルハウスの改修に臨みました。
エアサイクル工法の効果をどのように感じ、
空間づくりにどう反映させていったのか。
2016年に行ったモデルハウス改修プロジェクトを中西氏の目で振り返っていただきました。
「私はこれまで戸建て木造住宅のリフォームを数多く手がけてきました。
その経験から言うと、古い木造住宅にはたいてい雨漏りや結露が発生しています。
特に築30年を超える建物では、土台や柱などの構造体を含めた抜本的な改修が必要になるのが一般的です。
ところが今回、築33年になるエアサイクルの実験棟を解体してみると、躯体がとても健全な状態に保たれていました。
躯体の内部に空気を通すことで乾燥状態を維持するため、結露も発生していません。
躯体内の通気がいかに躯体を傷めず、建物の長寿命化に結びつくかということを改めて発見する思いでした。
これなら、躯体をそのまま再利用した改修が可能になります。
私自身は、それまでエアサイクル工法を用いた経験がありませんでした。
建設後30年以上を経て健全だった建物の様子を見て、エアサイクル工法の効果を実感しました。」
もともとの実験棟は23坪の小規模な建物でした。
改修の場合、構造に大きく手をつけると工事費が高くなるため、できるだけ柱や梁を残すように考えることが大切です。
同時に、細かい個室と廊下で構成されていた以前の間取りから、家全体が一体感を備えた空間構成へと生まれ変わらせたい。
そこで、限られた面積からあえて2階の床を一部取り払い、吹き抜けをもつ21坪の家にしました。
吹き抜けにより1階と2階の空間がつながり、家の中にいる家族の存在を互いに意識しあえるようになります。吹き抜けを通して入り込む光を、暗くなりがちな1階北側の和室に導き入れました。つながることの気持ち良さや家全体の明るさを感じられる住まいにしたのです。
一般に、33年前に比べて建物の断熱性能は格段に向上してきました。断熱性能が高まると家全体の室温が一定になるため、暮らし方も変わります。家が寒いと、小さく部屋を区切って必要な部屋だけを暖房することになりますが、家全体が暖かければ部屋の間仕切りはいりません。家族がつながる家は、高い断熱性能を備えてはじめて実現できるのです。
間取りは、夫婦がいずれ高齢化することも見すえて考えました。階段の上り下りがつらくなった時には1階だけでも生活できるようにしています。
また、高齢者にとって地域といかにつながっていくかは、健康な生活を続けるための重要な要素。
来訪者を受け入れ社会とつながる窓口となる土間は、長寿社会にあっても、貴重な役割を果たすでしょう。
自然の力を生かして快適な空間を生み出すエアサイクル工法の特長を生かすため、モデルハウスでは、太陽を活用し、自然に適した暮らしができるよう意識しました。
エアサイクル棟の外観は、周囲の街並みも意識しています。モデルハウスが立地する福井市には、黒い漆喰や黒い瓦屋根をもつ建物が並んでいます。そこで外壁を黒いガルバリウム鋼板で覆い、袖壁には、昔ながらの建物にある「うだつ」という防火壁のデザインを投影しました。
なお、太陽の熱を吸収しやすい黒色の壁は、省エネルギーの面では不利になるのではという指摘もあるでしょう。
エアサイクル棟と在来棟では仕上げの素材を変えて、空間のもつ雰囲気の違いを体感いただけるようにしました。
一方、在来棟は一般的なフローリングとビニールクロスで仕上げています。
同じ間取りとはいえ、内装仕上げが異なるエアサイクル棟と在来棟に入ってみると、印象が大きく異なることにお気づきいただけるでしょう。
専門的なことをいえば、断熱ラインの違いも体感を大きく左右するように思います。
断熱材は、エアサイクル棟では「屋根・外壁・基礎」に、在来棟では「2階天井・外壁・1階床下」に入れています。つまり、断熱材で囲まれたラインが、エアサイクル棟のほうが一回り大きいのです。目では見えませんが、この違いは意外と大きい。空気のバッファゾーンがあるエアサイクル棟は、見える空間以上の空気の大きさを体感し、奥行きを感じます。一方、在来棟はきゅっと締まった感覚を受けます。